はい、ごめんください。離職予防士のコスギです。
働きがいのある職場づくりを、仕組みから整える仕事をしています。
離職予防士ということで、改めて「離職コスト」を調査してまとめてみました。だいぶ長くなったので、この記事の結論を先に。
- 1人の離職で企業が失う金額は、控えめに見積もっても 180〜530万円規模。エン・ジャパンの試算では640万円という数字も。
- この30年で変わったのは離職率ではなく、「辞められても、追加採用で補填できる」という前提が崩れた。
- 離職コストは「支出の問題」から「事業継続の問題」に変化。「定着を求めること」と「人の可能性を育てること」は、トレードオフではない。
離職予防士として、月曜日が楽しみだと笑える大人の背中を子どもたちに見せたい。だから、「採用」以上に「定着」から体系的にアプローチしています。詳しく知りたい・話を聞いてみたいという方は、以下をご覧ください。
離職コストの相場は、1人あたり180万〜640万円という試算
1人辞めると、いくら失うのか。この問いには、いくつかの試算があります。
離職予防士協会のサービス案内資料では、採用コスト・教育コスト・生産性低下による損失を積み上げて、1人の退職で180〜530万円規模の損失としています。
一方、エン・ジャパンが2025年8月に発表した試算1では、年収600万円の人材が入社半年で離職した場合の企業の損失額は640万円。内訳は在籍人件費360万円、採用費用180万円、採用に関わった社員の人件費20万円、上司の面談や引き継ぎにかかるマネジメント費用36万円などです。
数字に幅があるのは、年収や事業規模も大きいですが、そもそも「何をコストに数えるか」の範囲が違うからなんですよね。求人広告費だけを数えれば数十万円で済みますし、在籍中に支払った給与や周囲の時間まで数えれば、軽く年収を超えます。つまり離職予防士協会が伝えている「180〜530万円」というレンジは、離職コストの試算としてはむしろ控えめな部類かもしれません。個人的には、地方の小規模企業だとこれくらいなんじゃないかなという印象は強いです。
では、その「何をコストに数えるか」を分解してみましょう。
離職コストは、4つの要素で計算しよう
さまざまな気持ちが刺激されるかもしれませんが、ひとりが離職するとどれくらいの損失があるのか、まずは冷静に見つめてみましょう。これを書いている私の手が止まりかけるくらいにはザワザワしますが、現実を直視するのも大事ですよね……
離職コストは、次の4つに分けると計算しやすくなります。
1. 採用コスト → ざっくり100万円
人材確保、もしくは空いた席を補填するための費用ですね。
リクルート就職みらい研究所「就職白書2020」2によると、1人あたりの平均採用コストは 新卒採用で93.6万円、中途採用で103.3万円(2019年度)。新卒は前年の71.5万円から約3割増えており、これが実額を公表している直近の調査です。求人広告費や紹介手数料だけでなく、面接に割いた社員の時間(内部コスト)も含んだ数字です。
採用競争は激しくなる一方なので、この数字を下回ると考える理由は、正直、あまり見当たりません。リファラル(紹介)採用の重要性が増すわけです。
2. 教育コスト → 4万弱+見えない損失
新人さんを仕事に慣れるまで教育したり、研修でスキルアップを図ったりするための費用ですね。
産労総合研究所「2025年度 教育研修費用の実態調査」3では、従業員1人あたりの年間教育研修費用は 36,036円(2024年度実績、中小企業は31,788円)。
……あれ、思ったより安い?ひとり4万円弱?
って思いましたよね。この数字は研修費用の年平均そのものであって、教育担当者や受講者の人件費(給与)が含まれていません。
実際の教育コストの大半は「先輩が教育に使った時間」です。たとえば指導担当が1日1時間、半年間つきっきりだったとしたら、それだけで100時間超。担当者の時給を2,500円とすれば、25万円以上かかっています。
実際には、「1日1時間」と割り切れるようなものではないですよね。そもそも「自分の仕事をしながらも、後輩を育てられる先輩」の存在は、組織にとって相当重要ではないでしょうか。この育成がうまくいかずに新人が辞めてしまう構図になっているケースもありますし……。
人に投資して育つかどうかは育成担当者と仕組みの影響が大きいので、実際に見積もってみたら大変な額になるかもしれません。
3. 生産性低下によるコスト
実際に、辞めてしまった方の「穴」に関わる費用です。
引き継ぎに伴う業務の非効率、残されたメンバーの残業増、後任が育つまでの機会損失、顧客との関係やノウハウの流出……などなど。書いていて目から汗が……
ここが最も大きく、最も見えにくい部分です。エン・ジャパンの試算で在籍人件費(その従業員が在籍していた期間中に企業が支払った給与や社会保険料の合計額)が360万円で最大の項目だったのも、「給与を払った期間に、戦力として回収できなかった」という損失の大きさを表しています。
大企業なら採用も育成も数千人単位でシステマチックに行われるので、「辞められたら採ればいい」という世界です。ですが、中小企業はそうはいきません。人数が少ない分、1人の影響力がどうしても大きくなるんですよね。
4. 費用換算できないコスト
1人の離職は、1人分では終わらないことがあります。「あの人が辞めるなら」という離職の連鎖、残ったメンバーの士気低下、そして「あの会社、人がよく辞めるらしい」という採用市場での評判。考えたくもない……ですが、経営へのダメージはいちばん深いです。
これまでの3つは業務に関わる要素なので比較的試算しやすいですが、この4つめは「人」に関わっているため、試算しにくいのです。関係性は数字にできないものですから。するんですけど。
離職予防士の「12の視点」の、「定着」の領域で扱っている4つの視点はすべて「人」に関することです。定着を重視することは、費用換算できないコストに目を向けることかもしれませんね。
4つの要素で試算してみる(単純計算)
ということで、時給2,500円で3年勤めた方が辞めた場合を、単純化して試算してみましょう。
- 採用コスト → 約100万円
- 教育コスト → 4万円×3年 + 後輩育成で約25万円×2年
- 生産性低下 → 約150万円(想定)
- 見えないコスト → 後輩の離職リスク↑
少なめに見積もっても、300万円。年換算100万円。もし年間2〜3人が辞めているなら、少なくとも数百万円以上が流出している計算になります。そこに、関係の濃かった方の離職リスクも乗るわけです。
しかもこの数字、決算書には乗らないんですよね。当然、経費にもなりませんし。給与という固定費は削減されますが、生産性低下とのバランスはいかに。
……ふぅ〜〜〜〜〜(ため息)
低めに試算しただけでドキドキするのに、現場や経営層の胃が心配でなりません。採用の前に離職を防ぐ重要性は、「見えるコスト」だけの問題ではないってことですね。
離職率は、30年間ほとんど変わっていない
ここで、意外なデータをひとつ。「最近の若者はすぐ辞める」と、言われるじゃないですか。
厚生労働省の長期データを見ると、大卒新入社員の3年以内離職率は1990年代半ばからだいたい3割前後で推移しています。最新の2022年3月卒でも33.8%(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」2025年10月公表4)。「3年で3割」は、令和の現象ではなく、平成の初めから続いてるんですよね。

出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」 より作成
日本全体の離職率(雇用動向調査)5も、直近10年ほどは14〜15%台で、令和6年は14.2%。劇的に上がってはいません。ただし、企業規模で見ると様相が変わります。同じ2022年卒の大卒3年以内離職率を事業所規模別に見ると、こうなります。

母数が少なければ割合は高くなるという法則はあるにしても、従業員50人前後の会社なら、採用した大卒新人の10人に4人が、3年以内にいなくなるというのが統計上の初期値だと考えると、離職コストの試算は「もしもの話」ではないんですよね……
…………ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜(深いため息)
気を取り直して、続けます。この話キツいから、無意識に考えようとしなくなる説ないですか?
変わったのは離職率ではなく、「追加採用で補填する」という前提
では、離職率が30年変わっていないのに、なぜ今、離職コストを問い直す必要があるのでしょう。
総務省「労働力調査」6によると、実際に転職した人は2025年で330万人。コロナ禍で上下したとはいえ、この比率は10年前からさほど変わっていません。ところが転職等希望者は2015年の812万人から増え続け、2023年には1,000万人を突破。2025年は1,023万人にのぼります。

2025年の就業者は6,820万人なので、転職等希望者割合は約15.0%。つまり今の職場は、社員の6〜7人に1人が「もっと良い場所があるなら動きたい」と思いながら働いている、ということになります。「転職した人の数」は大きく変化していないものの、「転職できる人・転職したい人の数=離職予備軍の数」は増えている、ということです。
辞めていないことと、居たいことは、別ですもんね。
そしてもうひとつ。辞められた側が追加採用で補填することが、構造的に難しくなりました。帝国データバンクによると、2025年の人手不足倒産は427件で3年連続の過去最多7。このうち約77%が従業員10人未満の小規模企業でした。特に、労働集約型の業種で人手不足を理由とした倒産が増えています。

30年前、離職コストは「痛いけれど、採用すれば取り返せる支出」でした。今は採用で戻せる保証がありません。 採用単価は上がり続け、応募は来ず、その間も仕事は減らない……減ったら尚更困るでしょう。
離職コストは単に費用的な損失ではなく、「辞められたら埋まらないかもしれない」という事業継続リスクに変わったんです。
ちなみに弊社はひとり法人なので、私が辞めたら離職率100%で即廃業です。だから心身が資本なんですよね。
それでも「定着」を求めるのは、古い考え方なのか
見えない費用の大きさもわかった。事業継続のリスクということも納得した。
それでも、人の可能性を大事にする経営者ほど、「人材の流動化はもう時代の流れだ。定着にこだわるのは、人を囲い込む古い発想ではないか」と葛藤するのではないでしょうか。社員のキャリアを思えば、外の世界で挑戦する道を塞ぎたくない。定着を求めることが、その人の可能性を閉ざすことになるんじゃないか、と。
社員に「ここがいい」と選ばれ続ける組織へ
でもですね、「辞めたいのに辞められない会社」と「そもそも辞めたくならない会社」は、まったくの別物です。経済産業省の「人材版伊藤レポート」(2020年)8は、これからの雇用のあり方を、「囲い込み型」から「選び、選ばれる関係」へ移行するものとしました。
辞めさせない仕組み(囲い込み)で実現する定着は、たしかに人の可能性と衝突します。でも、「他にもっと良い場所があるかも」と思う理由が社内で解消されていく職場、つまり強みが活き、成長を実感でき、お互いに話を聞き合える職場での定着は、社員が毎日「ここを選び直している」状態です。
転職希望者1,000万人の時代に人が留まり続けるなら、それは拘束の結果ではなく、選ばれ続けている証拠なんですよね。
「離職コスト」ってもう、穴埋めにかかる費用のことではなくて、離職してしまった方と組織のあいだに積み上がっていた信頼や文脈が、お金では買い戻せない形で失われることなのかもしれません。その損失のうち「かろうじて金額にできた部分」が180〜530万円という数字というだけで。
とはいえ、人が育って定着するには時間がかかります。強みが見つかり、任され、失敗し、信頼が積み上がる。このサイクルは、腰を落ち着けられる環境がないと回りません。離職予防士の12の視点でも、「定着」は「活躍」の前段に置かれています。根を張れない木に、枝を伸ばせない幹に、実がなることはないからです。
これまで、「採用」や「育成」に力を入れてきた組織は多いと思いますが、上記の理由で「定着」に本腰を入れることに躊躇していた組織も少なくないと思います。それは、離職を防いで定着を促すための体系化されたアプローチが少なかったことも起因するかもしれません。そこは、離職予防士を頼ってください。
とはいえ「よし、じゃあ定着のための施策をがんばろう!」とはなりません。そんなことされたら私も辞めますわ。
最初の一歩はお互いを知り、現状把握をすることです。カエルコムニスでも、離職予防士としてワークショップと働きがいアンケートを組み合わせた組織診断をおこなっています。
「従業員が選ぶ組織」ということは、「従業員が主体的に参加したい組織」ということ。そうやって発展する組織にしていきませんか。以下から30分の無料面談も予約できますので、どうぞご覧ください。
とはいえ残る素朴なギモン
ここはQ&A形式で。
あとがき
この記事を書きながら、ちょいちょい手が止まりつつ、何度もため息をつきました。胸に引っかかっていたのは、離職コストという数字の奥にある、「こんなはずじゃなかったのになあ……」という、すれ違い。
採用するとき、最初から辞めることを想定している会社はないはずです。「一緒にがんばりましょう!」「一緒にやっていきましょう!」と迎え入れた人がいて、その人との関係がいつしか、あまり望ましくない結末に向かっていく。そこには、数字では表せない痛みがね、あるわけで。
とはいえ中小企業の現場では、定着のことまで考える余裕がないことも多いと思います。まずは目の前の業務を回さなければならないのに、人が足りない。だから採用しなければならない。合わなかったらしょうがない……その選択を責める意図はありません。必死に事業を守ろうとするのは、責任感の強さの裏返しかもしれませんし。表面的にはわからない思いがあるにも関わらず、忙しさで心を亡くしてしまうと、忘れてしまうのですよね。
離職が続くと、組織の中には疑心暗鬼が生まれやすくなります。また辞めてしまうのではないか。何が悪かったのか。誰のせいなのか。そうやって苦しくなっていく前に、この記事が、少し立ち止まるきっかけになればと思っています。
「本当は、苦しいんだよ……めちゃくちゃしんどい」
「それでも、本当は、こんな会社にしていきたいんだよ……!」
そんな話を、誰かと腹を割ってできること。私は、そういう対話の相手でありたいと思っています。コーチですし。職業柄いろいろな方のお話を伺いますが、自分の弱みを認めた人は強いですよ。特に影響力資質の高い方は。
月曜日が楽しみだと笑える大人の背中を、子どもたちに見せたいんです。経営層がすり減ってしまう前に、相談してみませんか。
脚注
- エン・ジャパン「『早期離職』に関する実態調査」2025年8月(損失試算640万円) ↩︎
- リクルート就職みらい研究所「就職白書2020」(採用単価:新卒93.6万円・中途103.3万円) ↩︎
- 産労総合研究所「2025年度(第49回)教育研修費用の実態調査」(1人あたり年間36,036円・給与を含まず) ↩︎
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(2022年3月卒業者)」2025年10月公表(大卒33.8%・規模別データ) ↩︎
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査」(離職率14.2%) ↩︎
- 総務省「労働力調査(詳細集計)2025年(令和7年)平均結果」2026年2月公表(転職者330万人・転職等希望者1,023万人) ↩︎
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」(427件・3年連続過去最多) ↩︎
- 経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(人材版伊藤レポート)」2020年 ↩︎
- エン・ジャパン「本当の退職理由」調査(2024) ↩︎

